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広島高等裁判所岡山支部 昭和36年(ネ)179号 判決

控訴人 那須一二 外二名

被控訴人 医療法人光生病院

主文

原判決を次のとおり変更する。

岡山地方裁判所昭和三六年(ヨ)第一六七号占有解除工事中止仮処分申請事件について昭和三六年九月二二日同裁判所のなした仮処分決定は、被控訴人において控訴人郡須一二に対しては金一、〇〇〇、〇〇〇円、同赤木一正、同赤木直子に対しては金八〇〇、〇〇〇円の保証を立てることを条件としてこれを取消す。

訴訟費用中第一審費用は控訴人等の負担とし、控訴費用は折半してその一を控訴人等、その他を被控訴人の負担とする。

この判決は右取消の部分に限り仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の申立はこれを却下する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも控訴人等の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は控訴代理人において、

仮に被控訴人の主張するとおり本件仮処分を取消すべき特別事情があるとしても、原審の保証は低額に過ぎ不当である。即ち

一、別紙第二目録記載の建物の建築工事が完成すると、控訴人等が後日本案で勝訴判決を得てこれを収去し原状に回復しようとしてもその執行が著しく困難となり、そのため右建物の敷地である別紙第一目録記載の土地を他に売却するにあたつてその価格は減じ控訴人等として甚大な損害を被ることが明らかである。

二、更に控訴人等が本案判決後被控訴人に対して損害賠償等の請求をしたとしても、被控訴人の現在における経営ならびに資産状況からみてその支払能力がなく、控訴人等において結局右損害を負担せざるを得ない虞れがある。

従つて被控訴人の保証は右土地の価格を標準としてこれを定めるべきであると述べ

被控訴代理人において仮処分取消の場合における保証額はその目的物の価格だけを基準としてこれを定めるべきものではなく、仮処分債権者たる控訴人等の職業資産状況等諸般の事情をも併せ考察し将来における損害発生の蓋然性を標準として算定さるべきところ、(1) 被控訴人は控訴人等から右土地を使用することについて承諾を受けたうえ建築工事を施行していること、(2) 右土地の価格は一坪につき金三〇、〇〇〇円を超えないこと、(3) 控訴人等は右土地のほか数々の不動産を所有し相続人のためにこれを売却整理する意図であること等の事実関係からみて原審が被控訴人に命じた保証は結局相当であつて自由裁量の範囲を逸脱した不当のものではない。

と述べたほかは原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。〈証拠省略〉

理由

本件仮処分を取消すべき民事訴訟法第七五九条にいわゆる特別事情が存する点についての当裁判所の判断は原審の認定と同一であるから原判決の理由中関係部分をここに引用する。

そこで被控訴人にどの程度の保証をたてさせることが相当であるかの点について考えると、右保証は必ずしも常に控訴人等の主張する如く本件仮処分の目的物である別紙第一目録記載の土地の価格に相当する金額を保証として立てさせることを要するものではなく、本件のように建築工事の中止を命じた仮処分を取消すべき場合においては、右土地の価格のほか主として右仮処分取消後該工事が続行され被申請人が本案訴訟で敗訴の判決を受けたとき完成された建物を収去し仮処分当時の原状に回復するに足る費用と、右仮処分取消により控訴人等に生ずることあるべき損害額とを考慮して定めるべきところ、

一、弁論の全趣旨によつてその成立が認められる甲第一七号証によると、別紙第一目録記載の土地の価格は坪当り金六〇、〇〇〇円であるが、若し右土地につき借地権が存在するとすれば、その価格は半減し金三〇、〇〇〇円となることが認められる。

二、成立に争いのない甲第九号証ならびに弁論の全趣旨を併せ考えると、被控訴人は別紙第一目録記載の土地のうち岡山市厚生町三丁目四〇番、一、田二畝二八歩(控訴人那須一二所有)の土地と、同所四一番、一、田二畝一〇歩(控訴人赤木一正、同赤木直子所有)の土地等の上にあつた木造瓦葺二階建のいわゆる普通建物を取り払い、その跡の略右二筆の地上に別紙第二目録記載の鉄筋コンクリート四階建のいわゆる堅固な建物を建築しつつあることが窺われるところ、弁論の全趣旨によつてその成立が認められる甲第一一号証によると、右四階建の建築工事完成後これを取り毀つとすれば金二、五二五、〇〇〇円の費用を要することが認められるので、控訴人等が将来本案訴訟で勝訴したうえ右四階建の建物収去の執行をなすにあたり、前記普通建物に対する執行に比して時日が遷延し、ために控訴人等が損害を被るほか、執行費用が増大し被控訴人のその際における資産状態の如何によつては控訴人等において右執行費用を出捐し事実上その負担を帰せしめられるような事態が発生しないものともいいえない。

叙上の各認定事実のほかその他諸般の事情を綜合考察すると、被控訴人は控訴人郡須一二に対して金一、〇〇〇、〇〇〇円、控訴人赤木一正、同赤木直子に対して金八〇〇、〇〇〇円の保証を立てるのを相当と認めるので原判決を変更し、被控訴人が右保証を立てることを条件として本件仮処分決定を取消し、訴訟費用について民事訴訟法第九六条、第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言について同法第七五六条の二をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 柴原八一 柚木淳 西内辰樹)

第一目録

岡山市厚生町三丁目四〇番

一、田 二畝二十八歩

同所 五二番

一、田 三畝四歩

(以上那須一二所有)

同所 四一番

一、田 二畝十歩

同所 五一番

一、田 二畝十五歩

(以上赤木一正、赤木直子所有)

第二目録

鉄筋コンクリート建

一階 四〇二・三四平方米

二階 四〇八・五四 〃

三階 三五四・五四 〃

四階 三五四・五四 〃

屋上  六四・五四 〃

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